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日本先端医療ニュース

「脊柱管狭窄症」「椎間板ヘルニア」 首の筋肉を切らない手術で 後遺症を残さない世界初の治療法を実現!

2016-02-29 14:43

白石建 東京歯科大学市川総合病院・整形外科部長(教授)に聞く

「頸髄症」とは、神経の本幹である脊髄やその枝(神経根)が首の骨の中(脊柱管)で圧迫されて痛みやしびれ、マヒなどの症状が現れる病気であり、多くは手術が必要となる。「脊椎周辺の筋肉を切開したり、はがしたりする従来の脊椎手術は体への負担が大きく、後遺症が生じます。しかし、私は筋肉を骨からはがさずに手術を行います。つまり、筋肉を傷つけないで手術を行う私の低侵襲手術は、手術後の後遺症も少なく、翌日から立ち上がって歩くことも可能になるのです」。東京歯科大学市川総合病院の白石建・整形外科部長(教授)は、首の筋肉を切らない手術で後遺症を残さない世界初の治療法を実現している。(聞き手は本誌編集長 蒋豊)

筋肉を温存する低侵襲手術
 ―― 脊椎手術には神経の損傷という危険が伴うと言われていますが、先生の手術はどのようなものですか。
 白石 頚椎の脊柱管狭窄症は、首や背骨の中にある神経の通路、すなわち脊柱管が狭くなった状態を言います。アジア人種に非常に多く見られます。脊柱管が狭窄すると、そこを通っている脊髄や神経根が圧迫され、手足のしびれ、痛み、運動麻痺、時には排泄障害まで起こります。
 しかし、脊髄はとてもデリケートな組織で少しでも傷つけばマヒなどを引き起こしかねません。この脊髄を安全かつ確実に圧迫から解放するために、従来の手術では首の後ろの骨や筋肉を多く切り取って、なるべく広い視野を確保しようとします。その結果、手術後に首の姿勢が悪くなったり、新たな痛みを引き起こす原因となっていたのです。
 私は従来通りの手術を行ってきた中で、患者さんが手術後に苦痛を訴える姿を何度も見てきました。それゆえに何か改善方法はないかと長年悩み研究を続けてきました。
 首の正常な機能には、椎弓(ついきゅう)や、特に棘突起(きょくとつき)といった頚椎の後ろ側の骨に直接ついている筋肉の働きがとても重要です。しかし従来の手術では、頸椎に到達するためにこれらの重要な筋肉のすべてを骨からはがさないと、患部に到達できませんでした。
 しかし、私の手術はこれらの筋肉を骨からはがさずに行います。もともと、椎弓や棘突起についている筋肉には、隣り合う筋肉との間にすき問があります。このすき間を利用して、筋肉をはがさずに、そのすき間を広げて頚椎に到達し、手術を行うのです。これこそ「筋肉を温存する低侵襲手術」であり、今では白石法と呼ばれています。

後遺症を残さず翌日から
立ち上がって歩ける
 ―― 白石法にはどのようなメリットがありますか。
 白石 まず回復が早いことです。私の行う手術では筋肉のすき問を広げるだけなので、皮膚を数センチ切開するだけで済み、傷口が小さく出血も非常に少量で済みます。筋肉を温存しておけば、血流が維持されて、栄養が十分に供給されるので、術後の回復が早くなり、弱くなった患部を固定するために、骨を移植する場合でも、骨の接合が早くなります。
 また、術後の後療法(アフターケアー)が非常に簡単です。痛みが少ないので患者さんは翌日から立って歩くことができます。つまり、無理なく早期離床・退院、社会復帰が可能になるのです。首を固定するカラーをつけたり、薬物療法や理学療法(温熱療法、運動療法、けん引など)が必要になる患者さんは私の手術ではほぼ皆無です。
 さらには、頚椎の自然なカーブを保つことができます。頚椎は少し前に凸のカーブ(前弯)が正常な状態です。近年、姿勢の悪さなどが原因で頚椎がまっすぐになったり、逆に少し後ろにカーブ(後弯)している人が増えています。これでは筋肉の負担が増え、首や肩のこり、頭痛などが起こりやすくなります。
 こうした症例には、従来の手術法ではさらに後ろにカーブしてしまうため、金属で固定して前弯をつくる手術が必要となることがしばしばあります。これでは頸椎への負担が非常に大きな手術になってしまいます。筋肉を温存した手術では、首のカーブが保たれるため、こうした負担がほとんどなくなるのです。

anatomy of human pancreas with digestive organs in x-ray view

anatomy of human pancreas with digestive organs in x-ray view

高度な技術が必要
 ―― 白石法はどの医師でも可能ですか。
 白石 手術の基本的な考え方は、筋肉を傷つけないよう、筋肉と筋肉のすき問から脊椎に到達すること、その隙間を広げて神経の圧迫を取ることです。したがって、私の手術には光の調節と視野の拡大を自由に行える手術用顕微鏡が必要不可欠なのです。顕微鏡を使った手術は、医師の技術が平均以上でないとできません。ですから、誰にでもできる手術ではないのです。

手術後の回復力に驚嘆の声
 ―― これまで行った手術で具体的な事例を教えてください。
 白石 10歳の野球少年A君は、脊髄に腫瘍ができ、神経を圧迫してマヒを引き起こした結果、ボールが握れなくなり、片足を引きずるようになりました。そこで私は、筋肉をつけたまま骨を切って、腫瘍を取り除いた後、また骨と筋肉を完全に元に戻す手術を行いました。切った骨は数週間で元どおりにくっつき、レントゲン写真やMRIには手術の痕跡すら残っていません。今では元気に走り回っています。
 ある有名なプロレスラーは、試合中に頸椎を痛めましたが、私の手術を受け、リハビリの後、試合に無事復帰できました。一時は「引退か」とメディアで騒がれたものですから、周囲の人たちは「激しい運動ですら大丈夫な手術法なんだ」とびっくりしています。
 また、7年以上にわたるベトナムでの医療奉仕活動と若手医師の教育が評価され、2014年にホーチミン市の名誉市民に認定されました。今年もボランティアでベトナムに行き、首の脊髄腫瘍を持つ43歳の男性患者の手術をしました。その方は翌日から起き上がり、2日目からは院内を歩き回っていたので、その回復ぶりが話題になり、地元のメディアで取り上げられました。
 先日、56歳の内科医の方からお手紙を頂戴しました。この方は頸部脊椎管狭窄症になりましたが、主治医の整形外科・脊椎専門医より、「首の手術をすると10年20年経っても、手術による悪影響が出る可能性があるので勧めない」と言われ、結局そのまま放置してしまったゆえに悪化してしまい、ついに手術を受ける決断をしたそうです。そして、今後も内科医を続けるために、悪い影響が出にくい手術法はないものかと調べた末に、私を訪ねて来られたのです。手術は2時間半で終わり、出血もごく微量で、手術直後から首を自由に動かすことができ、しかも術後2日目の朝、首の固定具も何も付けずに退院しました。事実です。手紙には「もっと早く手術を受ければよかった」と感謝の思いがつづられていました。

中国患者を受け入れたい
 ―― 中国との医学交流についてお聞かせください。
 白石 最初のきっかけはアメリカの頸椎外科学会で上海の医師に出会ったことです。私の発表を聞いて、上海で講演してほしいと頼まれ、1994年に上海大学で講演しました。
 その後、私の古い友人の依頼で、その方の故郷・河南省の人民病院にボランティアで赴き、手足が麻痺して日用生活がままならなくなった70歳の農夫の患者さんに首の手術をしたこともあります。中国の医師たちは、「ずっと寝かせておこう」と言いましたが、私は医師全員が見ている前で、いつもの通りに患者さんを起こしたら、みんなびっくりしていました。首はまっすぐで、手術した部分も全然腫れていない。翌日、患者さんは立って歩いていました。
以前、中国の程永華駐日大使に、「中日脊椎外科学会」をつくりたいと話したところ、「中日脊椎外科学会が日中友好の架け橋になりますように」と揮毫を書いていただきました。2013年と14年には中国整形外科学会でそれぞれ講演をさせていただき、2015年には大連市第2人民医院から客員教授の称号を頂戴しています。
 今年の秋に、北京の外国人医師免許を取得するために試験を受け合格しました。試験問題は英語か中国語でしたが、私は英語で受けました。今後私は北京でも手術ができますし、もちろん、中国の患者さんが日本に来ていただければ、いつでも手術には応じます。医療通訳の方が必要ですが、現在、私自身、中国語を勉強しています。

人間に対する畏敬の念で
患者さんを救いたい
 ―― 将来の夢は何ですか。
 白石 私は患者さんによりよい治療を提供するために、医師は「人間に対する畏敬の念」を忘れてはいけないと思います。人間という存在に対して畏敬の念を持って向き合えば、必要以上に組織にダメージを与えずに目的を達成するために努力するようになります。より良い手術をするために、考え、工夫することが、すなわち低侵襲手術なのです。
私の手術は筋肉を大事にするので余計なお金がかからないし、患者さんは早く社会復帰ができますから、とても生産的な手術です。国や人種に関係なく、世界中の患者さんを私の手術で救えたら、医師として人生最高の喜びかなと思います。

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『人民日報海外版日本月刊』より転載