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日本先端医療ニュース

<世界初の甲状腺疾患治療法> 女性のために傷跡の残らない内視鏡手術を世界で初めて実現

2016-03-01 11:41

日本医科大学名誉教授
金地病院名誉院長
清水 一雄 先生

甲状腺疾患は女性に多く、目につく場所に傷が残るのは精神的な苦痛である。1998年、清水先生は、前頸部(くび)に手術のあとが残らない甲状腺内視鏡手術を世界で初めて開発した。これまで800例以上の患者さんに施術。甲状腺の周りには声帯にかかわる反回神経や血管が走り、高い医療技術が求められる。
1986年のチェルノブイリで原発事故後、小児甲状腺がんが増加。清水先生は、99年からベラルーシまで行き、検診や現地の医療スタッフへの技術指導を行っている。2006年ころには現地の医療スタッフで確実に診断できるまでになり、07年からは器具を持って行って甲状腺内視鏡手術を行っている。それらはすべてボランティアである。
清水先生は、5年前の東日本大震災での福島の原発事故後、県民健康調査委員会の委員の一人として、甲状腺内視鏡手術が保険診療で誰でも受けられるように尽力していたが、この度保健収載され誰でもこの手術を受けられるようになった。しかし未だこれを行える施設に限りはある。

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頸部に手術痕が残らない方法

●その手術ができる医者はまだ少ない

―― まず初めに、甲状腺の病気について教えていただけますか

清水 甲状腺疾患といっても、いろいろあります。大きく分けて機能性疾患と腫瘍性疾患の2種類。機能性疾患には、機能亢進症と低下症の2種類。
甲状腺は、エネルギーの素になるホルモンを分泌しています。まず、甲状腺機能亢進症で有名なのはバセドウ病。これは甲状腺ホルモンがたくさん出過ぎて、エネルギーが空回りしてしまう。イライラ、心臓への負担、多汗、食べても食べてもやせる。
逆に、ホルモンの出方が低下する甲状腺機能低下症。これは橋本病とか慢性甲状腺炎といわれていますけれども、全員ではなく、その10%ぐらいの人が低下になりますね。低下は逆にエネルギーがなくなってしまうので、元気がなくなってしまう。寒がり、うつ状態、むくみ、動作が鈍った。りなどの症状がみられる。そういうホルモン異常の疾患です。
あと腫瘍性疾患があります。腫瘍は、直接甲状腺疾患とは原則として関係ないのですけれども、良性甲状腺腫瘍と悪性腫瘍――がんがあります。

―― それをどうやって治療するのですか。

清水 甲状腺機能亢進症に対しては、薬を使って甲状腺ホルモンを抑えるか、放射線を使って甲状腺機能を抑える方法。それから手術。この3種類です。それから、機能低下症に関しては、薬で甲状腺ホルモンを補充します。それで普通の人と同じように生活できる。そういう薬による治療ですね、機能性疾患に関しては。
腫瘍に対しては、手術です。良性腫瘍は全員手術するわけではなく、大きい腫瘍、美容上問題になるものや周囲を圧迫するような大きなしこりとか。悪性の場合、通常第一選択は手術です。悪性腫瘍の中にも種類があって、手術すれば治る可能性が高いものと、どうしようもないほど大きくなって転移してしまうものがあります。多くは手術で治る「比較的たちのいい悪性腫瘍」です。

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―― 甲状腺専門の病院というのはほかにもあると思いますが、特に貴院でしか行っていない治療法はありますか。

清水 当院にくる患者さんは、副甲状腺疾患もありますが、多くは甲状腺疾患です。外科と内科があり、医療スタッフは全員専門家ですので、内科的治療も手術での治療もできます。もちろん外科でも手術だけではなく、内科的な治療もします。
また、ここでは放射線治療ができます。比較的大量の放射能を使うので、放射能汚染をブロックできる設備がないとできません。
外科手術では、内視鏡手術ができます。9割ぐらいが女性という疾患なので、頸部に手術の傷ができないように、内視鏡を使い、遠くから傷をつくらずにやる方法です。僕は今まで800例ほどやっています。

―― それができる先生が日本には少ないのですか。

清水 かなり少ないです。ただ、内視鏡手術はどんな場合でもできるわけではなく、良性腫瘍であっても、あまり大きなものだとできません。5センチ程度までです。悪性の場合も、初期ならば可能です。

―― この病気は、何が原因で起こるのでしょうか? かかりやすい年代というのはありますか?

清水 甲状腺に限らず、原因はまだわかっていません。常染色体優性遺伝といって、20分の1の確率で遺伝するがんもあります。
悪性腫瘍は40代前後がピークです。もっと高齢の方や、逆に若い人にも正規分布的に見られます。バセドウ病、橋本病などの機能性疾患も、一概に何歳だからかかりやすいというものではないですね。

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●開発した技術を少しでも還元したい

―― 貴院では中国人患者の受け入れは行っていますか。また、中国との医学交流はいかがでしょうか。

清水 中国から紹介されて、実際もう治療・検査を行っています。心配だから検査を受けたいという方もいれば、手術を受けた方もいます。
私は「GasLESS International 2007 ガスレスインターナショナル2007」を北京で主催しています。中国の先生方にはその時大変お世話になりました。今でもお世話になったことを感謝しており、その時の恩返しをしたいと思っています。
―― 甲状腺治療の専門医として将来の夢みたいなものはありますか。

清水 今やっている内視鏡手術がやっとわが国で保健収載されましたので今後急速に普及されていくことを期待していますを保険収載できるようにすることです。私のこの術式は世界で初めてで、やっと日本のみならず世界にも広がりつつあります。この手術が国内外にさらに普及される事を期待しているところです。
そして今度は福島。2011年に原発事故があって、今、福島県の県民健康調査委員会の委員にもなっています。これから先、甲状腺のことを福島県民のためにやっていきたい。今一番一生懸命やっていることです。今まで開発した技術を少しでも還元したいと思ってやっています。

―― 甲状腺関連の中国医学界の現状については、どのように感じていますか。

清水 中国の医学界の現状は、発展が最近急速で、とても現代的な良い医療が始まっています。ISOPES〔 International Society of Oncoplastic Endocrine Surgeons 〕という国際学会がありますが、私はその理事をしています。毎年学会があって、去年は韓国、今年は香港、来年は中国です。こういう学会の会長も中国のドクターがやるようになってきたので、とても国際的にも発展してきていると思いますね。

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『人民日報海外版日本月刊』より転載