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〈乳房の再建に奮闘〉進歩する乳がん治療の最前線

2016-03-08 12:51

湘南記念病院/かまくら乳がんセンター長
土井卓子 先生

かまくら乳がんセンターは、乳腺治療に特化して2009年に設立。日本乳癌学会から日本乳癌学会専門医精度認定施設の認定を受けている。
土井卓子センター長は、女性の立場から女性のための乳がんおよび乳腺分野での的確な診断・治療を行っている。
同センターでは、がんの進行度や患者のライフスタイルや希望を考慮した最適な治療法を選択、術後の生活のクオリティを落とすことのないような乳がん治療を第一に考えている。
さらに、乳房温存術でのがん細胞の取り残しを防ぐため、外科医、病理診断医、放射線技師、看護師がチームとして手術に臨んでいる。また、手術中に行われるセンチネルリンパ節生検の導入により、リンパ節の切除が小さな範囲ですむようになり、現在では術後の合併症が格段に減っている。
また再発や転移防止のために薬物療法と放射線療法の併用、形成外科と連携した乳房再建など、総合的な乳腺治療を目指し、カウンセリングなど術後のケアも細やかである。

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女性医師による女性患者の立場に立った治療方法

●全摘しなくとも治療は可能

―― 中国の病院との医学交流についてお聞かせください。

土井 3~4年前から、青島中心病院の院長や乳腺外科の先生と交流をしています。きっかけは、日本の医師免許を持っている上海出身のドクターが、今の乳がんの先端的な医療状況を知り、それを中国の女性患者にも提供できないかということで、私に声をかけられたのです。
たまたま私が、乳がんの治療について、MRIで細かく計測をしたりして、最低限の取り方で確実に取り残さないという発表をしていたものですから、同じようなことを中国でも導入できないかということでコミュニケーションをとってこられました。
その後、青島の先生方が、東京のがんセンターや日大、当センターにも来られました。そして、乳房温存術、乳房再建、術後の肌ケア、患者会などいろいろお話しました。
それで、そういう概念やシステムを中国にも導入して、乳がんの患者が少しでも楽になれないかということで、3カ月間、青島中心病院の放射線科と乳腺外科の先生が当センターに研修にいらしたのです。
まず、青島中心病院にも最先端の機器が入っているのに、乳がんのマンモグラィー検診システムがないのですね。マンモグラフィーは、乳がんを診断する方法のひとつで、乳腺・乳房専用のレントゲン撮影のことです。マンモグフィー検診は、このマンモグラフィーを使った乳がん検診のことです。
日本はまだ受診率が低いとはいっても、2000年から始まっていて、私はその精度管理のお手伝いをしています。それで、一緒にマンモグラフィーの講習会と試験も受けていただいたら、放射線科の先生はトップの成績で合格されました。
中国の先生には、日本の検診システムの立ち上げ方、患者会の紹介、抗がん剤のしみの消し方、眉毛の描き方、あるいは放射線後の保湿ケアの仕方、縫製下着など、女性患者が頑張れることを話して現物も全部持って帰ってもらったのですけど。

―― 青島中心病院の乳腺外科の現状はいかがでしょうか。

土井 今私たちは皮膚や乳頭は残して、傷なんかみんな見えないようにする。でも、中国の先生は、「もし皮膚の下にがんの取り残しがあったらどうするんですか?」と質問されたりしました。20~30年前、日本で私が温存術をしようとしたときに、男の先生から言われたことと全く同じことを言っていました。「ちょっとでも取り残ったらだめでしょう」と。
でも、オペ中にも病理で全部診て、万一浅いところまでがんが伸びていたら、その後で放射線をかけるとか、そういう次の手を考えるという話をしますが、なかなか理解していただけない。
1980年代まで日本も、病巣を乳房や大胸筋、腋下のリンパ節ごと切除する方法が主流でした。でも、臨床試験の結果、乳房を切除しても温存しても、どちらも治療成績が変わらないことがわかったのです。
今、中国の女性だって確実に診断、きれいに治してもらいたいと思っていると思うのです。

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●乳房温存術を第一に考える

―― 先生の治療法についてご説明いただけますか。

土井 最近、日本ではタレントの北斗〔晶〕さんが乳がんだったというニュースを聞いて、乳房が痛いからと受診される方がいます。検診の結果、「あなたはマンモもエコーも異常ないですから」と言っても納得しない。だから、なぜ痛いのか、どう対応すればいいのかということを丁寧に説明します。
がんの場合はなおさらです。患者が納得するためには、精度の高い検査と診断が大事です。うちではMRIの専門技師が非常に細かく撮影、こちらが欲しい画像をつくってくれます。
そして、その結果を診て、がんの進行度や患者のライフスタイル(出産や仕事)、希望を考慮して、最適な治療法を選択しています。例えば、ミリ単位で乳頭方向にがんの伸びがあるとか、リンパ節への転移、核グレードなど全部読み解いて、薬物療法や放射線を使おうとか、全部決めていきます。
当センターでは、乳房温存術を第一に考えています。乳房温存術は切除する範囲を極力小さくし、患者の術後の状態や生活に与える影響を最小限に止めようという治療法です。
私たちは、がん細胞の取り残しを防ぐため、外科医、病理診断医、放射線技師、看護師がチームを組んで手術に臨んでいます。
オペ中にもミリ単位で追加切除をして、がんの取り残しがないかという確認、あるいはセンチネルリンパ節生検(がん細胞が乳房内にとどまっているかどうか検査する)も最小限の傷で、また、温存で乳房が変形する場合、皮下乳腺全摘でシリコンに入れかえるなど細心の注意をはらいます。リンパ節の切除も最小限に抑えているので、術後の合併症が格段に減っています。
術後も、患者一人ひとりの病理の細かいデータを読み解いて、補助療法として、薬物療法(抗がん剤やホルモン剤)や放射線療法などを行い、再発のリスクを抑えています。そして、審美的なケアから、カウンセリングなど精神的なケアまでとても大事にしています。

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―― 中国からの患者の受け入れ態勢はいかがですか?

土井 今は口コミでいらしています。中国で手術も受けた後の相談や検査、あるいは心配なので検診を受けたい方など。
メニューはあります。自由診療になりますが、マンモ、エコー、希望があれば造影のMRIもして、10万円ぐらいですが一日で全部ができます。
うちは検診だけでなく、治療、あるいは抗がん剤とかで苦しむ方も受け入れます。もし乳房再建だけを希望する方は、形成外科も紹介します。

『人民日報海外版日本月刊』より転載