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前立腺がんにはロボット手術が最適——吉岡邦彦 新百合ヶ丘総合病院ロボット手術センター主任に聞く

2015-11-02 12:51

文/蒋豊

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前立腺がんは男性にとってもっとも一般的ながんであり、無意識にホルモンが含まれる食物を多く摂取しているなどの原因により、中国では最近20年間に前立腺がんの発症率が急上昇し、死亡率も毎年2%ずつ増加している。同時に、もし早期発見で切除すれば、前立腺がんの5年生存率は100%に近く、完全に治るがんでもある。アメリカでは90%以上の前立腺がんの手術に医療用ロボット「ダ・ヴィンチ」が使われている。開放手術、腹腔鏡手術に比べても、ロボット手術はがんの再発率が最も低く、欧米では前立腺がん治療の主流となっている。今回、新百合ヶ丘総合病院を訪ね、泌尿器科ロボット手術の第一人者で、前立腺がんロボット手術の件数日本一である同院ロボット手術センターの責任者・吉岡邦彦医師にお話をうかがった。(聞き手は人民日報海外版日本月刊編集長 蒋豊)

開放手術と腹腔鏡手術の長所を合わせ持つ

―― 先生は日本ではじめて泌尿器科の手術にロボット「ダ・ヴィンチ」を使われた方で、国際ロボット手術学会の唯一のアジア人会員です。なぜ、先生は前立腺がんや膀胱がんの摘出手術でこの「ダ・ヴィンチ」を使うようになったのですか。この手術にはどのようなメリットがありますか。

吉岡 「ダ・ヴィンチ」には2005年12月に初めて触れました。当時勤務していた東京大学附属病院心臓外科でこの「ダ・ヴィンチ」を導入したものですから、はじめて試運転をしてみて、私はその敏感な動きに驚きました。私はチャレンジすること、新しい分野を開拓することが好きな性格ですので、まずこの最先端の技術を泌尿器科の領域に応用したいと考えました。

病院の同意を得た後、5カ月間の特訓を経て、私は日本ではじめて「ダ・ヴィンチ」による泌尿器科の手術を行いました。

手術ロボットで前立腺がんの手術をするには、医師にとっても患者様にとってもメリットがあります。開腹手術ですと、ある程度の長さの鉗子を自分の手で持って、前立腺がトンネルの向こうにありますので、トンネルのもう一方の端のものを取り出し、さらに膀胱と尿道を縫合します。鉗子を傷口から入れて伸ばしていき、見えないところで縫合しますので、基本的には医師は職人技ともいうべき指の感覚に頼っています。もし不注意で他の場所にぶつかれば、腸に穴を開けてしまうこともあります。しかし、金属の指が3本あるロボットには物理的な活動制限はなく、200度以上の角度で旋回可能で人の手ではできない細かい動きをしますし、さらに患部を立体的に10倍に拡大して、医師がトンネルの先のほうを見るのを助けてくれ、長い間のブラックスボックス問題を解決してくれました。

腹腔鏡手術はまず腹部に空気を送り込んで膨らませ、手術のためのスペースを作り出します。そして開放手術よりもさらに長い鉗子を使って切り、縫合します。見た通り、鉗子は短ければ短いほど操作性が上がり、器用に動かせます。長くなればぶれやすくなりますから、この点からも腹腔鏡手術は開放手術より完成度は下がります。

しかし、腹腔鏡手術のメリットは出血が少なくなるので、手術中の輸血が必要ないことです。例えば指をちょっと切ってしまって、傷口を押さえれば出血が止まるのと同じように、腹部の空気が生んだ空気圧が止血してくれます。またロボットは医師がリモートコントロールしますので、医師が手を動かしたとおりにロボットも動きます。鉗子もいらず、ぶれることもありません。つまり、ロボット「ダ・ヴィンチ」による前立腺がん、膀胱がんの手術は開放手術の正確性と、腹腔手術の傷口が小さく、出血が少なく、回復が早いという特長を備えているのです。

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合併症リスクは最小、再発率は最低

―― データによると、日本では毎年1万人以上が前立腺がんで亡くなっており、3万人余ずつ患者が増えているそうです。ロボット手術はすべての前立腺がん患者に適しているのでしょうか。

吉岡 この10年間、アメリカの前立腺がん手術の90%以上がロボットによるものです。日本では平均で年間1万5000件から2万件の前立腺手術が行われていますが、昨年は約半分の7000件前後がロボット手術でした。今年は6〜7割になると予測しています。あと数年で日本もアメリカのように前立腺がんはロボット手術が主流となるでしょう。

ロボット手術はすべての患者に適しています。手術時間から見ると、開放手術が最短ですが、患者の術後の回復時間は一番長い。ロボット手術は腹腔鏡手術よりも所要時間か短く、だいたい2時間から2時間半ほどです。手術結果から見ると、ロボット手術はがん細胞の残存が最少で再発しにくく、術後の合併症のリスクもほかの手術に比べて明らかに減少します。

しかし、もちろん開放手術にしても腹腔鏡手術にしてもロボット手術にしても、患者様は前立腺を全摘した後、尿失禁があります。開放手術後の尿失禁は約6カ月で自然治癒します。ロボット手術後、70%の患者様はわずか1カ月で自然治癒し、85%の患者様は3カ月で自然治癒します。

術後の男性機能障害については、多くの医師による臨床報告のなかで、ロボット手術は神経を温存しやすいとしていますが、現時点ですべての手術に同様に男性機能障害があります。現在、日本ではロボット手術が先進医療として認可された医療機関は3つしかありませんので、患者様にとっては手術のコストはまだ高いといえます。これはロボット手術が唯一他の手術にかなわない点ですね。

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ロボット手術の専門家を多く育てたい

―― 先生はなぜ泌尿器科の医師を志したのですか。先生のようなロボット手術の専門家は日本に何人くらいいますか。

吉岡 私は慶応義塾大学の経済学部に入ったのですが、だんだん自分が会社員には向いていないと思うようになりました。理科系男子として、私は未知の分野に挑戦したいと思い、大学2年生の時に大学を中退し、島根大学の医学部に入り直しました。私は手術が好きで、外科の領域では泌尿器科と消化器科しか大型の開放手術をしていませんでしたし、泌尿器科の診断法と治療法は進歩し続けており、大きな将来性があると感じたので最終的に泌尿器科を選びました。

ロボットは人に比べて敏感で、手術の完成度も高いことはもう疑いのないところです。結局のところ、手術はロボットが自動的に完成させるものではなく、操縦するのは人間で、操作する医師には十分な技術と豊富な臨床経験が必要なのです。

日本では、泌尿器科学会の認定医師で、最低10件以上の前立腺がん開放手術を経験した医師だけがロボット操作を学ぶ資格を持てます。ロボットはアメリカのインテュイティヴ・サージカル社の製品ですので、操作を学ぶ医師はまずアメリカで2日間講義を受け、使用許可証をもらいます。

私自身は約5カ月間スパルタ式の特訓を受け、週末も休みませんでした。トレーニング科目の一つにロボットを操作した折り紙で鶴を折る、というのがありました。始めたばかりの頃はロボットのアームがぶつかってしまい、紙が破れてしまいました。完璧な鶴を折るのは難しく、1時間以上かかってしまいました。

前立腺がんの手術にはこのような複雑な操作はありませんが、ロボットを操作して鶴が折れるというのは非常に高度な技術があるという証明です。私は今ではロボットによって5分で鶴が折れます。これは数百羽鶴を折った結果です。さらにシリコンで作った膀胱と尿道を使って縫合の練習もしました。

日本泌尿科学会と日本泌尿器内視鏡学会は、泌尿器科領域のロボット手術に統一の審査基準を設けており、審査を通った医師だけがロボットを操作できるのです。しかし一人一人の医師の手術件数は異なりますので、審査を通ったとしても、当然経験の差はあります。患者様は医師を選ぶ時にこのことに注意する必要があります。

当院は世界で4、5カ所しかないインテュイティヴ・サージカル社の指定見学施設になっていますので、国内外の医師や専門家が見学し、学びに来ます。私は責任者として彼らに操作を教えています。日本にももっと多くのロボット手術の専門家が出てきてくれるといいと思います。

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中国人患者の受診を歓迎

―― 前立腺の病気は老人病でもあり、中国でも社会が発展するにしたがい高齢化も進んでいます。今後はさらに多くの中国人が日本に受診に来るでしょう。ロボット手術センターは中国人患者に対応できますか。また、先生ご自身、患者から非常に信頼されているのはどのような点だと思われますか。

吉岡 私の患者様の中には何人か帰化された中国人の方がいます。みなさん日本に住み、日本語ができます。中国国内の患者様はまだ診たことがありません。ただ、当院には台湾出身の黄医師がいますので、中国人患者の診療もできますし通訳もできますから、そばで私をサポートしてくれます。

海外から来院される外国人患者の皆様にもっと対応できるように、南東北グループでは医療サービスのための機関である「メディコンパスクラブ」を設立しました。北京にも事務所がありますので、中国からもっと多くの方が来日し、最先端の優秀な検診と治療を受けていただきたいと思います。

ロボット手術をした前立腺がん患者は、手術の翌日にはもう歩けます。ただ、前立腺を摘出した後は正常な排尿が阻害されますので、カテーテルを入れて尿道と膀胱をつながなければなりません。当院ではふつう6日目にカテーテルを抜き、その後2、3日様子を見てから退院となります。患者様はだいたい11日前後入院することになります。

術後1カ月間は手術した部位を圧迫しますので、自転車とバイクには乗れませんが、その他の運動には制限はありません。旅行やゴルフも大丈夫です。

中国人の患者様は来日する前にまずメールで病状を知らせていただき、手術日を予約していただければ、当院の準備ができ次第、安心して来日し手術を受けていただけます。

患者様と接する際、私は患者様の不安をやわらげるようにしています。泌尿器科の病気は尿失禁や性機能障害などセンシティヴでプライベートなものがありますから、私は患者様にリラックスした雰囲気を提供できるようにします。医師に苦しみを訴える時に恥ずかしさや躊躇を感じる必要はありません。

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取材後記

日本の泌尿器科ロボット手術の第一人者、吉岡邦彦先生に揮毫をお願いすると一番好きな文字だとして、「忍」と書いてくださった。この「忍」の字を見ていると、手術補助ロボットで折られた数百羽の鶴が目の前に浮かんだ。吉岡先生には日本の「匠」の精神がある。忍耐と集中によって、専門分野で最高の仕事ができるのである。

情報元:人民日報海外版日本月刊